ストーリーの中を流れる二人の心境がメインに提示されており、それぞれの、恋愛感情の自覚と、壁にぶつかって乗り越えるさまとがくっきり描かれ、手堅い纏まりを見せる。
物語前半に差し出されていた障害は後半に解決に向かう過程でこれも二人の試金石とな
る。この解決方法は、ヒロインが相手の誠意を(結果的に)プロポーズで受けるHQ的金太郎飴ではなく、このストーリーのヒロインに沿う行動(あろうとする自分に向かう、という意味)が示されて、物語進行に存在感あり。またその第一歩こそが、彼を間接的に動かすところも巧み。
ただ、いきなりヒロインからの口づけは、どれほど恐怖からの動揺と混乱と安心の登場があったにせよ、それはないな、との印象を持った。悪夢に怯え不安な夜、夢うつつ状況のとき、突然の夜中の訪問者、彼に安心感を覚えたヒロインの描写が、キスに走るのが、ヒロインのキャラとこれ迄の流れの延長線として違和感。抱きつくまでは分かるけれど、キスの行動についてはそれまでで示しきれてない。
末筆に絵について一言。好き嫌いの別れる人物画に酷評ばかり集結しているようだが、私は嫌いじゃない。佐柄先生の他の、本作より円熟したタッチを多数見ているからなのか、本作に多少の滑らかさ不足や荒れはあるが、それはそこまで私にとっては星数に影響しない。角度や切り取り方もオッケーなので。
よく唇について問題視されている点は、わからなくないが、咲坂伊緒先生の「ストロボエッジ」の主人公仁菜子の登場シーンにダブった。私はその時、その唇はないな、と仁菜子のキャラに強く拒絶反応を覚えた。が、高評価。
人物絵に好感を持つか否かは作品の印象を決定づける。コミックの宿命だろう。だから、わかるが、私は、この先生の描かれる唇には拒絶反応を感じないようだ。作風として既定値みたいに刷り込まれている。
彼のルックスも私には大丈夫。
先生のHQ担当中で初期の作画なのだろうかと思った。顎のラインが食事時によく物を噛まなかった人のように、奥歯が発達していない顎なそれかと。
コマの見せ方はいつもの先生らしいスタイルで、吟味された線ではないのも混ざるが片鱗に作風の見え隠れを感じながら読める、勝手知ったる佐柄先生世界にいる、みたいな。
現在全く抵抗感の無い、麻生先生や荻丸先生にも、当初は絵の個性に引いていた。コミカライズの両刃なのだろうかと、妙な発見をした思いがする、
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