映画「天地明察」から関心があった。どの位原作を写しだしたのか知りたかった。
天地明察、光圀伝、はなとゆめ、決戦関ヶ原収録ー真紅の米、マルドゥーク・スクランブル、黒い季節、ばいばいアース、微睡みのセフィロト、オイレン・シュピーゲル、スプライ
ト・シュピーゲル、もらい泣き、十二人の死にたい子どもたち、コミック(天地明察、光圀伝、マルドゥーク・スクランブル、オイレン・シュピーゲル、ピルグリム・イエーガー、蒼穹のファフナー)がたっぷり試読出来るので、その幅の広い世界と、言葉の剣のある使い方に驚嘆しつつ、恐れおののいている。
言葉の切れ味を読者に試すように、表現方法には敢えて当たり障りのないところを選んでいない感じがする。ダークだったりグロがかったりで、描かれているものもクセがある。白と黒の2色勝負の(書物という性格の)中で視覚化も物凄い。色彩感覚、嗅覚に訴える語彙だけではなく、選ばれた文字の見え方にも工夫が入っていて細かい。この漢字を使うのか、このルビを振るのか、といったところまで行き届いており、逆にそれらがこの作家のこわさと言えるかと思う。敢えてそうしてアピールしてくるのはなんなのだろう?
また、想像力もただ者ではないのでふしぎをさっくり見せたり、意表を突いた展開やキャラ設定がある。奇妙でファンタジーな世界にスルッと連れて行かれる。やり過ぎとして、読んでいるといつの間にか二三歩引きそうになるほど、強烈気味に徹底している感を持たされる。構築されたものが細かいというか念入りというのか。
物語の語り手は、こうも変幻自在感を出さないし出そうともしないのが普通な気がする。私は氏のSFにはなんとなく付き合いきれぬ、発想の突き抜け具合を感じてしまった。戦いに特化の為の諸々、が。私には過激な感触を拭い去ることは出来なかった。
石、金属、登場人物達の住んでいる世界、私には読んでいる間だけ居合わせることでもう充分だった。
恐るべき才能の持ち主を鬼才と評すことがあるが、鬼の文字にふさわしい、まことにおそろしいものを見た気がした。
「天地明察」は試し読みの為に収録されたラインナップでは、最も読みやすかった。上述の強い個性が本作には強くなかったからである。
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