激しく頭に血を昇らせて、あんな女許さない、と、夫を取られていたと思っている女が息巻いている場面。どうせ真実は違うんじゃないかと疑いながら、ヒロインが彼女は怒らせたんだ、と読み手に強く印象付ける効果は、作者の意図通りで、私は、その怒り心頭の女
性と知り合いらしい彼の立ち位置に、今後の展開への好奇心をうまく刺激された。
さんざん煽っておいて、世間の眼と共通の、彼のヒロインに対する誤解と、誤解されたヒロイン側に募るストレスがピークで事態急変。骨格そのものは少しの目新しさも無し。
自覚はまだない頃から、またそしてその後認めざるを得ない段階に入ってからも、彼に魅力を感じているヒロインは、はっきりとした彼の押しに何度も乙女のピンチに。
彼の誤解に基づく暴言と、それをぶつけられるヒロインとのやり取りが凄まじかった。欧米人だからか、なぁなぁでやんわり拒絶なんてしない。相手の魅力に引きずられそうなときでも、最後は屈しない。人を貶めることが彼にとっては快感なのか、「愛人」に収まっていた彼女の行状そのものが癪の種なのか、或いはその両方なのかもしれないが、疑われたら、違うというか、正反対にいちいち説明をする気もなくなるか、そのどちらか。彼女は後者。
ハーレクインあるあるの、男がヒロインを悪い女と思い込むも、実は違った、という、一種鼻をあかして却って愛を深めるパターンの話。
彼がヒロインへとことん関わるのがまた凄い。献身ともいえる。ヒロインの視線について、彼が愛を確信しての行動だ。実際この話はそういう設定だから良かったものの、一歩間違えば大きな付きまとい行動ではある。
聞く耳持たない彼が、いくら欠点を二頁も挙げ連ねられて多少の反省があったとしても、抜本的に変身するとは考えられない。
欠点が魅力的にも映る、ということはあり得るが、それにしても、強烈な好きと嫌いの入り交ざったヒロインの恋路。
読み通すことは余りにエネルギーを要し、久しぶりにこのタイプの話にしたのならともかく、「黒いドレスは幸運の印」という、テイストの近いのを、読んだばかりの身には、結構夏バテみたいなことに。
別作者なのになぜ火花を散らす二人の発散熱量が、この二作品は近かったのか。2日連続したのは偶然だ。
私の作品選択ミス、タイミングの誤り。その責任を評価に勝手に押しつけて申し訳ないが、4星としたい。
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