日中かなりの活字を読まなくてはならない日々が続き、ある日、漫画を読んでもセリフがまったく心に入ってこない状態になってしまった。
が、移動のためまとまった時間車内にいなければならず、読めたら読もうと、直木賞受賞を機に購入したこの小説を手に
電車に乗った。生まれて間もない男の子を亡くした経験から、亡くなった人が何処か近くにいるのではないかという感覚がある、というお話をされているのを聞いて、そのような経験を持つ人が紡ぐ物語とは、どのようなものか興味が湧いて積んでおいた本だった。
5編からなる短編集で、登場するのは、双子の妹を脳出血で亡くした32歳の綾、クラスでいじめにあい、母を交通事故で亡くした中学生のみちる、離婚後、父に引き取られ、再婚した父、再婚相手、2人の間に生まれた子と生活する小学生の想…どこか喪失感を抱えた人々。そんな少し低い温度の環境の中にいる人々を描いているのに、文体は平易で、心にするする入ってきて、いつの間にか主人公の気持ちに自然に寄り添っていた。心の中のしぼんだ細胞が、水分を得てみずみずしく甦っていくように満たされた気持ちになっていく。少し心が弱っている人の心にも届くようにという、作者の祈りが内容にも、文体にも込められているように思え、心地良い。
どれも、日常から5ミリほど浮かんだ空間に主人公共々置かれるような内容で、星や星座にまつわる話題が現れ、それが転換点となり主人公が少し前に歩み出す。星は不変のものの象徴で、道を見失ったときの道しるべの役割を果たしているように、人生の道しるべの役割を担っているかのようだ。読後、自分も共感して気持ちが調っているのに気付いた。印象的だったのは、心配をかけないようにいじめにあっているのを母親に隠していたみちると、彼女を思って身体をなくしても寄り添い、守ろうとする母親との関係性を描いた「真珠星スピカ」。話せないのにいじめの渦中にコックリさんの10円玉の動きやコロッケにしのばせた宝物で自分の存在を示したり。そのはかないのに暖かい存在感に、作者の経験が生きているように思え、母親の思いに胸が詰まり涙が止まらない。哀しいはずの体験を、身体はなくても近くで見守り続けているという感覚を伝える物語にし、共有できる形にすることで、救われる人々がどれだけいるか。心に空いた穴を塞ぐ力が小説にはあるのだと実感した。素晴らしい1冊でした
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