味わいある画風の津谷先生は、景色や脇役にも実在感がある。二人は、互いの遠慮が、一歩踏み込んでわがままを言わない関係を継続させてしまい、結婚していながら、恋愛感情のストレートな表現を、二人の間に共に示しあう時がない。
人間として出来すぎ
の両人、抑制が皮肉なくらいよく効いていて、殻を破れない光景を見せつけられて、さんざん読み手のこちらは、二人の問題の愛の不発弾のなんとも言えないじれったさを味あわされて。
もうだめなのか、二人は…、と、哀しい行き止まり感漂ったときに、ヒロインの性格からしてさもありなんという方法で心情の吐露。しかも、表面上はそのほとんどはお礼に費やされた格好、添えられたささやかな表現のみが、彼女の本心。
彼も、力づくでモノにしない、相手の気持ちの熟成を待った究極の忍耐強さを最後まで失わない。
困っているなら手を差しのべて人を救おうとする心の持ち主である二人は、共に、その相手のキャラクターを汲んで、互いを結びつけているのは愛ではないのだと考える。
この二人の、相手を焚き付けないおとなしい日常の流れが、出会い方やその後の進行と合っていてとても雰囲気が一貫して穏やかで、緊迫の場面も内面からじわり人柄を象徴。
こういう、派手に人を振り回さないストーリーの存在が、じんわり読後感をもたらしてくれる。
感情のありかたのひとつの体を成していて、それでいて嫉妬心や人の陰謀などしっかりと描き込まれ、表現されているものが表面的ななものではないと感じる作品。
丁寧で繊細な仕事を感じさせてくれた。
HQでよく思うこと、これも、タイトルの付け方が興味をそそらない。読者を逃がしていると思うのだが。
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