本作のヒロイン、醜聞まみれの未亡人に、自分の弟が入れ込んでいると聞き、いきり立って乗り込み別れさせようとする兄。私の知人にも兄ではなく父親が乗り込んで手を切らせたケースがある。当事者にはトンでもな暴虐だが、裂いてる方は正義感一杯で陶酔状態な
のだ。
このストーリーは、そんな余計な行動の主がメインキャラで公爵さまのご身分。
貴族とは王家を支える家臣、中でも彼は国の為に体を張って守ってきた熱い男。留守の間に世間知らずにも弟が問題のある女にお熱?、帰国早々耳に飛び込んだ悪い話。男を手玉に次々と、などという女性に、他でもない我が弟が騙され、してやられてなるものか、と断固阻止すべく頭より先に動き出していた。が、噂の張本人と接触、図らずもその回数を重ねるほどに、噂とは違う人物像を自分の目で観察出来ていく。
生身の実物との接触で、彼の中で違和感が頭をもたげ始めると、一つ一つの振舞いに噂を裏付けるものが見つからないばかりか、終には貴族界に定着していた噂を、自ら否定できるほどの確信を強めていく。彼女はそんな人ではない、と最早好意は押し留められない。
人の色眼鏡というものの事実無根ぶりが、ヒロインの艶聞を彩った。それを容易く信じ込み、その目で当初は接してきた。そんな人間だと思い込むことに不思議さはない。実際なにもなかったのに二人はできていると、他にも相手がいるなどと、他人がいくらでもまるで見てきたように噂を吹聴したのだろうとは、実社会に照らして想像に難くないこと。思い込む人に限って自分の目に自信あるのも、これまた実社会にもあるあるのこと。他人のフィルターのかかっていない自身の目で見ることの大切さ!私もそう言いたくなることがあるからよく分かる。
本人の居ないところで軽口を叩いた友人らに、反射的に庇う彼の行動が、もう安易には流さない自分のヒロイン像を固めつつあった心理状況を示すもの。適当にその場の調子を合わせたりなどして安易にやり過ごさない、彼の性分をもどこか描写している。比較的ストーリーの前の方に、色眼鏡に引きずられるばかりでないところを持ってこられていたところに、作者の周到な語り口を感じた。
ヒロインの娘の楚楚とした絵も話に活かされていたと感じる。
幸せが訪れて本当に良かった。
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