夫は疑われたことで関係を継続できない、と。妻は不貞を確信してもう終わりと。セリーンの懺悔で三者皆救済となるが、現実は誰かが謝るなんて、そんな綺麗な決着になるお伽噺は無いかと。疑われた方も悪いことをしてないのだからこれ以上言うことはない、とい
うのも理解できる。聞く耳持たない相手にこれ以上は無駄。弁解は面倒だ。
真実はどうだったか、の前に、信じて欲しい人に信じてもらえない事に対する何かの崩壊が、痛ましい。「疑われても仕方がない」のだろうか? これは妻にしてみれば痕跡があればいきり立つ場面だが、やましいところはなかった立場の者にしてみたら(だからこその彼視点で作劇)、これほど心にダメージを受ける事件はないだろう。唯一の痛恨の出来事により、崖でドンと墜落させられるようなものだ。此迄なんの為に仕事をしてきたか。愛する人の為でもあったからである。
「何を考えているのかちょっとわからないところがあって」と、冒頭にヒロインの方から見る夫の人物像を潜ませ、このストーリーはそこに、その直後の激震の種を仕込む。
長い年数付き合って結婚してもなお突然芽吹く不信。状況を前に平静でいられる妻は居ないが、一度入ったひびは二度と以前の状態に戻れないのか?
24時間監視しあうことなど出来ないから、二人は互いに信じるしかない。他に(も)好きな人が出来たのか?、との問いに、別の生命である相手の正解は当人でない以上得られる訳がない。
だから、ヒロインが「もう一度」信じようとするタイミング、ここしかストーリーは美しく終われない。ひびの入る前になろうとする心を映して着地した「いい」話だ。この人を疑うなんて、と思うところが本当に心がスッとする。HQはハピエンだから。
妊娠初期の大事なときに、長距離通勤、不安や怒り、離婚の危機、災害時の夫への気遣い、次々精神的にキツイ出来事があったが、無事であってよかった。HQだから。
高井先生、絵が時々薄い(特に女性)と感じるが、彼サイドの語りが多いので、多忙な男性の環境説明には却って良かった。
男性としての、また人間としての彼の優秀さを肉付け描写、ヒロインへのサポートのさりげなさに繋がり、ヒロインが自分自身で主体的に再び信じることの出来るところまで、引き立て役に収まっていた。
アン・メイザー/藍まりと「あなたを愛せたら」読み比べしたい。
担当漫画家が大人を描けないとダメ。力があり良い。
もっとみる▼