「スターライト」の橘一美のお母さん、橘彩子のお話。若き宇都宮先生も出てくる。ピアノのコンクールでのこと、事故のこと、どんな出来事を経ても彼女は音楽の才に愛でられている。音楽が好き、この点だけが彼女という人間を尊い存在に成り立たせているようで
、どこにいようと非凡さで周りが圧倒されてしまう。彩子の歌のシーン、絵がものすごく語ってくるのだ。くらもち先生の作品は絵の力が大きく比重を占めていて、マンガの表現だからこそストーリーの場面場面の強い印象づけに成功していると感じている。そもそもマンガで音楽を表現することにかけては、視覚的に読み手に訴える必要がある。そこがちゃんと届いてくるのだ。エピソードひとつひとつ全てが読み手の私の身体に沁み込んでくるような感じがする。それほどドラマチック。泣かせよう、感動させよう、というわざとらしさ無しに、心が揺さぶられる。
母子揃って私生活の幸せを断念しシンガーとして生きるのか、というのがこちらの胸をチクリ。今なら芸も恋もというのも肯定されるが、昔は両取りさせないことが多かった。1977年発表作品。
「メリーロバスマス」は人違いハプニングを噛ませた、別学の男子との板挟み恋愛。くらもち先生の作品には意地悪だったり妨害するような女子が結構登場するが、現実社会にも居たりする手合いだから、お綺麗だけで済まないところを描いて妙に緊張要素が入り込む。ところが恋愛勝者となって間接的にリベンジとなり、読み手の憂いが晴れる場が用意されるのだ。彼の気持ちが行動に表れるところが、この作品のいい仕掛けとして働いている。ドラマというものがくらもち先生には神的視野で見えている気がするくらい。この作品もEndの幕のおろし方が絶妙。1977年発表作品。
「一枚の年輪」は美大というくらもち先生のお庭で、背景はそれほど描かれていないのによくわかるように描かれている。小道具がまたとってもニクイ。十代の頃って一つ違いを大きくとらえもし、逆に、全然同い年であっても個人差、年齢の上下関係も厳然としているようで、でも、感情は飛び越えるのがよく出ている。
どの作品も先生はタイトル付けがセンスいいと感じているが、この作品も本当にこのタイトルしかないように説得力がある。1978年発表作品。
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