フィンチャム子爵の可愛がりようを見せつけられただけに、小姓ジョージィが去った後の彼の様子を伝えられたとき、罪作りな行動をしてしまった当人よりも、読者のこちらの方が子爵に強く同情してしまった。当人は、そこまで愛されてたなどと夢にも思ってない、
という構図なので。女として見られていたという確信も無かったので。
犯人探しの面白さを並走させて、ヒロインも正体隠して、殺人事件はどうなったの?、そっちどうするの?、とこちらが案じながらストーリーが進む。巧みに読者を焦らしたところで、二人の日々を子爵がまだ続くと思って味わってるさなかに、その夢のひとときが突然終わる。
ヒロインは目的を果たしてしまったから姿を消したのだ。
使用人の人柄が皆素晴らしい。特にディグビーのキャラは得難く、どんなHQにもここまで見た目含め個性を発揮する場面を見たことがない。
そして、大奥様も、孫娘も、嫌らしいところが全く無い。亡くなった育ての親のような伯爵の、ヒロインとの思い出描写にも、そんなにいい方を亡くしてしまったのか、とそれも相当にジンと来てしまう。素敵な人間に囲まれ恵まれた毎日を送ることが出来ているヒロイン。必要だと思ったら実行してしまう行動力も、それを裏打ちする正義感も、情の豊かさの表れ。
働かない小姓には鞭を打てなどと偉そうに言うのがいたりはする売輩は居るのだが。
ヒロインを気に入ってしまった不機嫌子爵が、最初から最後までストーリーを回して、本当に出会ったときからだったんだね、と、何かと関わってきて微笑ましいし、守る気持ちも頼もしく、人が人を好きになるときは、女らしいかどうかを超越することがあることが、しっかり出てる。
ヒロインのやってることは、子爵から見ると放っておけないのもよく出てる。
君しかいない、フィンチャム子爵のこの言葉が本作品の魅力。彼の想いがよく伝わってくる回想シーンが実に巧く差し挟まれていた。
タイトル、私も変だと思う。翻訳と、編集の方がもう少し考えたら、と思う。両片想いでも、描写の、ウエイトを考えると、だ。
あと、誤植は本当に興ざめするから、校正をしっかりして欲しい。
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