あの辺で選ぼうと思った、との言葉を暴言と感じて同学年の男子に「その発想、女性への冒涜に聞こえる」と反論したことがある。若かった私は、正義感から。
その後年を取ると判ってきた。人間てものを悟った、というか。その雑な考えは珍しくはなかったと。
この作品の医師の心の中にもある、打算。いや、冷静な計算。
結果的に愛情は深まり、当初の「ちょうどいい」という品定め感は雲散霧消したが、出発点への違和感は私には暫く付きまとった。
HQには、ヒロインの相手たるべき人物に、誤解などからひどい言葉をヒロインが投げられたりするのが、ある種の定食の一皿と見なされて制作されているフシがある。それに腹をたてている読者もレビューに見られる通り一定数居るようだ。
しかし、不信感から来る諍いが、形式的約束事を反故にされて怒る、ということならそのストーリーはロマンスにならない。気持ちが介在するから傷つく。信じたい信じて欲しいと。
「ラチットとかいう男」が彼女にこんな思いをさせやがってと内心彼が毒づく場面が良い。知った初期のうちからずっと気になっていた、いまだヒロインの心に占める元カレ。その男の、彼女に対する仕打ちへの怒り。彼の心の言葉に、妻に相応しいかどうかなどという値踏みは入っていない。純粋に心から気にかけていることが伝わって良い。
ちゃんと、愛情が累積の末の元カレ元カノ登場の揺さぶりを物語が描いていて、かつ、互いに復活愛を否定する情景描写付き、タイミングの良い作りとなっている。あんな始まり方でも幸せは見つけられるよ、との、かつて目の当たりにした光景に対する、男子がそうであっては恋愛は滅ぶ、とでも考えた自分の若い頃への説教を受けた感じ。
それにしてもアデル恐るべし肉食、迫力ボディ。白衣の下のトップスの絵にはバストの形状がクッキリ分かる。80頁でガツンと爽快。
しかし、最後のダメ押しの様なオチは、いかにもHQなら好きそうだなぁとは思ったものの、彼の愛が真剣になった時点で、既に不要と私は思う。
もっとも、元カレへの読者の復讐心へのサービスか?
ところで、レースにもっと意味があるのかと思った。誰かそのレースを賞賛していたが、私はコーヒーを彼に入れたときの、カップ&ソーサーがいいと思った。
割と見た目おじさんと思っていたら、彼はハネムーンでは意外な感じに若かった。
出てきた映画のタイトルが年代を感じさせた。
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