台詞が絶妙に選ばれていてモタモタがなく鮮やか。人の向き、カメラアイ?、巧みな角度。
男性を信じられなかったヒロイン、それだけ大変な目にあってきたのだから無理もない。
ハリスは違った。しかし、違うのだということを、ヒロインがしっかりと
認識するまで、それなりに時間を要した。
そしてヒロインは、ハリスへの想いがいつの間にか大きくなっていることに気づくとき、思うのだ。「雨が降るたびに思い出すだろう/締めつけられるような/胸の痛みとともに/あの雨の日の出会いを」
出会いが、ヒロインには特別な意味を持ってしまった。ヒロインが覚える雨の日に対するその感傷が、読んでいる私の胸も締めつけてくるようだった。
ハリスに出会う前の彼女は、とんでもなく幸せではなかった。彼がもたらしたものは、単なる平穏などというものではなく、本当にヒロインに豊かな毎日を与え、しまいには切なさと恋しさまでも共にプレゼントしてくれたようなものだ。
彼女を苦しめ続けた出来事はいつまでも追いかけてきたが、ハリスは彼女のひどい悪夢と現実も追い払った。一体彼女にとって、彼はどれだけ大きく強く頼れる存在であったことか。
ヒロインからはハリスの気持ちは見えなかった。これまで男の悪い面を見せつけられてばかりだったヒロインは、まだハリスの気持ちを伺うほど対男性観察眼が肥えてない。ハリスは紳士を貫いたのだ。
ハリスは本当に気高い男性だと思う。決して彼に気持ちが無かったからではないのだから。鋼鉄の意志の、持ち主だったのだから。
そんな二人の、危ういけれどさざ波のやまない関係を見せつけられ、それでもジェリコの壁は崩れなかったところへ、こうしたストーリーには登場しがちな妙齢の女。案の定ヒロインは居たたまれない。
ハリスの「会いたかったんだ」が物凄く響いた。そうでもしないと、なかなか用もなくそこへ来れなかった彼の胸中にやられた。
「きっと雨が降るたび思い出す/あの雨の日の出会いを/懐かしく・・・」
雨が完璧にドラマのキャストであった。
ベッドシーンはHQには必ずしも要らない。TLなどで読めるから。
心の機微を、一冊に織り込んで、幸薄かった女性がしっかり幸福をつかむこんな話が、読んでいて一番心に栄養補給出来てゆく。さりげにヒロイン母が幸せになっているところも、抜かりなく漏れなく、不幸だった女には幸福が行き渡っているようで嬉しい。
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