悲しみで胸が塞がれている状況よく分かる。2年は、身近な人、それも自分以外家族全員亡くなるという衝撃を克服するにはまだ微妙な年月ではある。自分の肉親の病死でも3年でもなお生々しい実在感が家の中に残る。まして妻も子も一遍に、しかも痛ましい事故だ
と踏ん切りはつかないだろう。
でも、生きている人間だから、目の前の人とのやり取りには心が動く。食べられなくなっても人は食べられるようになっていくみたいに。
最も近しい位のところで抱き続けてきた苦しい片思い、口に出せない気持ち。ヒロインの心情も痛いほど伝わってくる。どんなに耐えてきたことか。長年の親友との想い出もある上に、彼の「一緒に死にたかった」の言葉。私の胸も張り裂けそうだった。その彼を抱き抱えて哀しみを共有する絵は、二人をとても伝えていると思う。「友人」から踏み出しかかり、妻に罪悪感を覚え、それでも生身の感情はそこにちゃんとある。彼の葛藤は彼のもの、ヒロインは入れない気持ちでそれでも望まれるまま寄り添う。
自分を大切にしてくれる人間的魅力十二分の男性が近くに居てもこころが靡いて行かないほどに、強く強く一人の男性を想い続けるヒロイン。他に目をくれればすぐ傍に別の幸せをもたらす人が居るのに、と端でどれ程思っても、当事者の心は簡単でない。動かそうと思って容易く対象を変えられるものでない。たとえ、他人が対抗馬に魅力をより見出だしても、どこがいいのか解らないと他人に思われても、感情は自分が好きな人だけしか向かない、そんなものだ、というのはよーくわかる。
片思いの辛さ苦しさを経験したなら、もうその渦中の日々を昨日のように追体験してしまう。立場や色々が異なっても、行きどころのない想いは皆同じだから。
この話は堪らなく生々しく、感傷を呼び起こす。
でも、それが恋だったと、行き止まりの感情がいつの間にか自然と落ち着いた今だからこそ読めるのだろう。
これを読むと、辛い恋が報われると事前に分かっているHQの有り難さが身に染みる。
やはり橋本先生の手によるから描けた、といえる。
絵と心理、双方が擦れ遭って引火を始めた炎に、二人がいつか本当に寄り添える期待に向かって、頁をめくる私の手が熱を持ってた。
先生の技量だから、ここまで没入して読めたのだと思う。
表紙の絵と、本編開始前の扉絵が異なる絵というのが良かった。
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