謎の美女の女将軍ベロニカ率いる隣国の侵攻により、わずかな従者と共に、王国を追われた王女の王国奪還と復讐という、この作者の久し振りの王道ファンタジーという感じの設定に「ドラマティック・オデッセイ」などとも、銘打たれ、期待をしたのですが。
し
かし、実際には構想倒れ・誇大広告みたいな感じの話になっていて、すごくがっかりしました。何より話が短過ぎますね。もう少し長めの話にしないと、読み応えのある話にはならないでしょう。そしてまず何よりも、無駄に強烈なベロニカの毒気ばかりが、印象に残ったような。主人公達の薄さに比べて。ベロニカの、どっちつかずの身体に、いろんな意味でその精神は女性的というのが、何とも気持ちが悪かったです。また、結局はベロニカの壮大に見えた野望も、結局は好きな相手への狂気じみた執着という、個人的な色恋レベルのものでしかなかったこと自体にも、拍子抜け。アイリスへの関心は関心として、話の最初の頃に仄めかされていた感じの、王国転覆を図り、自身の権力確立を目論むという、壮大な野望は野望として、持っていて欲しかったような気がしました。ベロニカの実際の性別は、どっちにせよ。そしてこのように、ベロニカばかりがあまりにも無駄に強烈過ぎたのに比べて、肝心のリオンの、薄過ぎるキャラクターが敗因かと。アイリスもアイリスで、ベタベタな正統派お姫様ヒロインだし。それからリオンの、かつての仲間だったベロニカを、あんな怪物に創り上げてしまった、罪悪感の一端とか、かつての仲間への思いとかも、描き込み方が足りなかったような。また、いまいち、リオンがまるで別世界の存在であるアイリスに惹かれていく、感情の描き込み方も足りなかったような。終始淡々として、ポーカーフェイス過ぎるし。惹かれる気持ちがわかりずらいといえば、アイリスもそうかな。もしかして、彼の野性味とか、何か実は秘めた優しさみたいなのが良かったということでしょうか?敢えてちょっと良かったキャラといえば、姫のお守り役のセダムですかね。ひたすらストイックに王女であるアイリスに忠誠を尽くしつつ、心密かに彼女を想い続ける彼の切ない愛し方には、ちょっとグッときました。この作者なら「終わらない夢を綴る君に」とかの方が、ずっといいのに。この話は結構感動的で泣けたので。
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