久しぶりに萩尾望都先生作品に。
何十年ぶりかで初期名作を読み直してから一年余、肩の凝らない作品で先生の作品世界を覗きたかったので満足している。
まず、人の心のつかみどころのなさが出てるのがいい。相性とか、理屈ではどうにもならないものがよ
く描かれている。バレエ芸術のクオリティを高めんとするキャラ達の、なお作者自身の、バレエ愛が気持ちいい。
そして、全体を流れる前向きの元気。メソメソしかかるも、はねのけられる伸びやかさ、弾ける熱気と、地道に要所要所ではここぞとベストを尽くそうと締める気合いも感じられるのがいい。
更に男女の気持ちの揺れ。不確かさが登場人物達の人生それぞれに変節点を与える出会いと別れ。悩み、惑い、変化を恐れ、傷つくし闘うし、期待と不安の中で次第に今自分が取りたい行動へ収斂していく。
ひとりの人間が、誰かと出会って一生迷わず一人だけを愛する、そういう経過で美しい人生を過ごす人も居るだろうが、稀であって人生ドラマとしては単調。そこを好む読者層も居るとは承知しているが、社会で最もありふれているのは、少女の永遠の理想形から外れた、本作のような振り子のごとき感情の移り変わりだろう。
そこに踏み込もうとしながら、尚且つ、屈折せずカラリと前を見て、今の自分に正直な明るいキャラ達の生気が、読んでいて晴れやかになるし、爽やかな読後感にしてくれた。
冒頭のほう、親子の難しさに触れ、気重の雰囲気、天気がパッとあまりしないロンドンが舞台とあって、多少身構えたが、尻上がりに晴れ間が見え出す中盤から勢いもついて、話の核が拡散するかに見えて、着地は無理感はない。
転回部からまとめる手際鮮やか。やっぱり、その辺のあっさりスラスラ読む軽さの、作りの簡単な作品に全く終わってないのが、萩尾先生作品のクオリティ。
プチフラワー1988年〜89年発表。奥付含め409頁。
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