少女漫画の甘ったるさは出てこない。なぜ消防士になったのか、が描かれる。そして大正期の消防士の日々。主人公は男性。
ひとこまひとこまの飛びがこの漫画の各画面のスピード感を上げていて、出動も何回か挟まれて、火事場の緊張が話を盛り上げる。
主
人公(厳密には冒頭登場の主人公のひいひいおじいさん。以降2人を示すときは主人公等と書く。)は超人ではないし、同僚達も、彼のアパートの住人達も、どこかにいそうな人間で。同僚達はなぜ消防士の職に就いたかはっきりしている。ひいひい爺さんが職場では異色なほうなのだ。アパートの住人達の火災に対する警戒レベルも庶民感覚。主人公等の火に対する正しい(?)神経質な(?)恐怖感が、物語の背骨といえそう。
味わいある適度なマイルドさの線が、彼らの当時の日常感に、何かしらノスタルジックな雰囲気を加えて、人間同士のギスギスしない温かみ、人間味を醸し出して、デフォルメさえ希望みたいな明るさがある。
過去に遡ってのひいひいおじいさんの話と、現代の主人公のキャラの背後を形作るものとの接続が、少し1組の伊勢さんという遠縁の子の登用に負いすぎたのか、又は火事が今も当時も多すぎるからなのか、世代と時間の隔たりに強引さがないでもない接続の持っていきかた、そこが主人公等の回りのエピソード群の作り話っぽさを濃くしてしまったように感じた。
表紙の絵が大正期の広告宣伝等の風情を連想させ、カタカナ表記のタイトルがそこに時代性を押し出してきて、中身への興味を繋ぐ巧みな工夫がされていることに感じ入った。
「flowers」 2010年7月号〜2013年3月号の間で飛び飛びに発表された作品。195頁。
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