「なぜ偉大な女性芸術家は現われなかったのか」。美術史家リンダ・ノックリンがこの問いを提示した1971年から、今年で50年が経つ。いまだ世界のあらゆる場面でジェンダー不平等への指摘が後を絶たないが、作家や研究者が蓄積してきた実践の成果として、近年「女性アーティスト」 (と呼ばれる作家たち)に関する研究に注目が集まり 、国内外の美術館では見直しを図る展覧会が相次いでいる。日本でも戦後、「女性作家」が多数登場したが、その多くは「戦後美術史」が編纂される際に重要な位置を占めることなく振るい落とされてきた。そこで本特集では、フェミニズムやジェンダーの視点から戦後美術史に介入し、「女性作家」を新たな方法で記述する。主に取り上げるのは、日本にルーツを持ち、「前衛」の時代に新たな芸術を模索した1920〜40年代生まれの作家たち。そのなかから、今回は以下を重視して選定した。①グループの紅一点や著名作家のパートナーとして、男性中心的な芸術観において付属的に扱われることが多い作家。② 国境を越えたトランスナショナルな活動を行った作家 。③インターセクショナリティの観点から語ることができる作家。また、これらの視点から1950〜80年代生まれの作家数組の解説と、世代を縦断する論考を併せて掲載し、問題意識を現代へと接続することを試みた。まずは魅力的な作品を見て、作家たちをめぐる語りに耳を傾けてほしい。その出会いが美術史やこの社会、そして自分自身の足元や輪郭をも見直す契機となり、そこからまた新たな美術の言説が生まれることを願う。SPECIAL FEATURE女性たちの美術史Introductionフェミニズム/ジェンダー美術史って何?吉良智子=解説田中敦子 加藤瑞穂=文山崎つる子 加藤瑞穂=文福島秀子 中嶋泉=文岸本清子 香川檀=文三島喜美代 建畠晢=聞き手 杉原環樹=構成田部光子 正路佐知子=文富山妙子 山本浩貴=文久保田成子 小田原のどか=文宮脇愛子 小田原のどか=文宮本和子 富井玲子=文イトー・ターリ 北原恵=文アン・イーストマン 馬定延=聞き手・構成志賀理江子 馬定延=文Timeline Project 編集部=文桂ゆき/丸木俊/菅野聖子/堀尾昭子/芥川(間所)紗織/江見絹子/多田美波/岡上淑子檜山真有+加藤瑞穂=文中谷芙二子/出光真子/塩見允枝子/斉藤陽子/林三從/杉浦邦恵/野中ユリ/合田佐和子檜山真有=文ESSAY日本の前衛と女性中嶋泉=文現代美術史のフェミニズム、ポストコロニアリズム、トランスナショナリズム──インターセクショナリティの視座から山本浩貴=文なぜ女性の大彫刻家は現れないのか?小田原のどか=文芸術と科学技術、そして「女性」作家──ある違和感から馬定延=文バックラッシュを越えて──「女性」アート・コレクティブの興隆とBack and Forth Collectiveについて内海潤也=文Interviews & OpinionsCross Talk「フェミニズムズ/FEMINISMS」展長島有里枝×藤岡亜弥×風間サチコ×高橋律子「Viva Video! 久保田成子展」キュレーター座談会濱田真由美×橋本梓×西川美穂子×由本みどり対談:鈴木みのり×丸山美佳クィア、インターセクショナルな視点と、葛藤を手放さないことグリゼルダ・ポロック インタビュー美術史におけるフェミニズム的介入という思考実践はなぜ必要なのか?中嶋泉=聞き手 田村かのこ=翻訳・構成ARTIST PICK UPSIDE CORE慶野結香=文WORLD NEWSPhiladelphia /Liverpool /Düsseldorf /Art SceneARTIST INTERVIEWピピロッティ・リスト馬定延=聞き手「Youth(仮)」展 奈良美智インタビュー宮村周子=聞き手東京ビエンナーレ2020/2021菊地良博「VACCINE」展特別寄稿ジャンルは何のために?──絵画の場合福尾匠=文REVIEWS森山安英「光ノ表面トシテノ銀色」+urauny「urauny dinner」椹木野衣=文川端健太郎「Knee Bridge」清水穣=文平山昌尚「つづく」47話プレイバック!美術手帖BOOK月刊美術史常備店リストバックナンバー案内次号予告*青柳龍太「我、発見せり。」は休載です